―――ありえない。
死んだ人が蘇るなんて、そんな、おとぎばなしみたいなこと、
「ありえるんだよ、カナエ」
呆としていた私に獅絶は微笑む。それはとても愛らしいもので、とても畏ろしいものだった。
薄く開く瞳が、ただ見ているだけなのに、逃げられない。
私と同じだなんて、間違ってる。獅絶の色は宵闇に浮く満月のそれだ。黒髪から覗く、まさにらしい。対する私は、その光が水面に映った色。存在すらまやかしの、色。
無遠慮に私の顎を持ち上げていた彼の小さな指は、今度は両手で頬を包みあげる。
「式使いには<七見舞い>の術式があるじゃないか」
やさしくて、知っていて当たり前だという声だった。
でも、聞き慣れない言葉ばかりだった。
きっと顔に出ていたんだろう。おや、とした顔をして、
「なんだ。瑠璃の式使いの娘のくせに、術式も知らないのか?」
そう言われても、知らないものは知らない。……あ、瑠璃の式使い、っていうのは、夢で聞いた。名前、かな。けど、あれは夢で、そんなの意味ないよ……でも、これは現実で。
頭、ぐちゃぐちゃしてる。現状とか意味わからないこととか起きすぎてパンク寸前だ。どうしよう、どうしようお母さん!
そこではたと気付く―――私はさっき、とても重要なことを聞き流したような……
「どうして死ぬのか、わからないままじゃ死に切れないだろ? 手向けだ。教えてやるよ」
心中察する気もあらず、といった感じで、獅絶は説明を始めた。
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<七見舞い(ナナミマイ)>
式使いに伝わるの術式のひとつ。
この術式は対象者が死んだ日からひとつきを三十日と計算し、七年かけて冥王のもとへ繋がる黄泉路を創り、死者の魂を輪廻の輪に入り込む前に此岸に帰還させる。さらに七年かけて肉体に定着させる高位階級の術式。
まず先の七年で黄泉路を創り、冥王と契約をかわさなくてはいけない。もし契約に成功しようが、後の七年のうちに対象者に対し気の供給を怠り死を招いた場合、術式は解除される。肉体から剥がれた対象者の魂は、輪廻の輪に戻ることなく生と死の狭間の無限空間を漂い続けることになり、永遠に報われることはない。また、同術式を展開しようが意味をなさない。「死」とは完全に肉体と魂が剥がれたことを言う。
契約は式使い対冥王とで行なわれるが、契約終了時には対象者に対して冥王による最後の選定が行なわれる。しかし内容は不明。
冥王は契約時、選定時以外に手を出してはいけない。また(ほぼありえないが)、冥王がその座から退位ないし命を落とし代わりに即位した者、『冥王』の名を持つ者にこの条件は適応される。
七七見舞い(シチシチミマイ)、四十九見舞い(シジュウクミマイ)、十四見舞い(ジュウシミマイ)とも言う。
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まるで呪文のようだった。日本語だとは思えない。なんていう、専門用語の羅列。
えぇと、つまり、生き返ることができる……ってことだよね?
なんとか意味が取れた部分を口の中で復唱する。
説明されてもわからないものはわからない。ヨミジとかメイオウとか言われてもちんぷんかんぷん。
―――けれど、どこかでそれらを理解できている自分がいた。それは彼の話すことをことごく理解し、私に知識を植え付ける。まるでおまえはすべてを知るべきだと言ってるみたいだ。
「おまえが普通の対象者と違うところはな、躯と魂を繋ぐために俺の魂を使っているところだ」
躯と魂の波長があっているならばいらないものである。しかし叶のそれはことごとくズレており、ただ魂を肉体に帰すだけではすぐに離れてしまう。
打開策としてとられたのが、獅絶の魂を緩衝材として使うというものだった。
魂と躯のズレを和らげズレを小さくする。これで自然に魂が離れる確率を限りなくゼロにすることができる。
しかし、ひとつの躯にひとつの魂が原則であり、一番バランスがとれている状態である。ひとつの躯にそれ以上の魂を入れるということは、それだけでその個体に負荷を与えてしまう。憑かれて気分が悪くなるのはこれが原因だ。
そも、冥王はここまでする義理はない。冥王がすべきは、契約者の望みにしたがい対象者の躯に魂を入れ直すだけだ。剥がれないための工作など、契約者もしくは対象者がすればいい。それを冥王が肩代わりしているということはすなわち―――
「俺は、俺のモノを返せと言っているだけだろ?」
冷たい金色が、見下ろしてくる。
するりと頬に添えていた手が下りていく。ああそうか。触れる手が冷たかったのは、魂が半分ないから―――なんて、いまさら気付く。
「返してもらう」
そう言って彼は、私の胸に手を置いた。